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わたしとミステリ

7.鮎川哲也と十三の謎Ⅰ(有栖川有栖とエラリー・クイーン)

 

有栖川有栖

『月光ゲーム―Yの悲劇’88』(1989)

 

・有栖川有栖もエラリー・クイーンの影響を受けて作品を書いた作家のひとりである。

・この作品も乱歩賞に応募された作品だが、受賞には至らなかった。しかし、島田総荘司に評価されデビューに至る

・この作品は<鮎川哲也と十三の謎>という東京創元社が刊行した全13冊の書き下ろし国内推理小説シリーズの作品の一つで、このシリーズは80年代ミステリを語る上では外せない作品が非常に多く集まったシリーズである。

・前の法月綸太郎のところでクイーンについて触れたので、今回はその流れを汲んで、クイーンを非常に意識した有栖川の作品を紹介する。

 

学生アリスシリーズ1作目

“Y”ダイイング・メッセージ

「読者への挑戦」

 

・これもエラリー・クイーンと同じく、作中に作者と同名の探偵が登場する。

・この作品も偽のダイイング・メッセージを巡って事件が複雑化していくお話。国名シリーズをかなり意識しており、この作品においても”読者への挑戦”が登場する。

・6章構成で5章の最後に読者への挑戦が置かれる。しかし、本当に謎解きが可能なのかというと、絶対に読者が負けるようになっている。探偵の推理と同じ方向へ読者が行き着くとはまずない。法月の言うように推理の恣意性という問題が”操り”に関しては捨てることができないのである。突き詰めると後期クイーン的問題に行き着いてしまう。この作品においては、読者はいかに騙されるのかを楽しむのが筋だと思う。

 

クローズドサークル

 

・サークルで学生たちがキャンプをし、その中で連続脱人事権が発生する。そして、キャンプに行った先の山では噴火が起こり学生たちは孤立してしまう。避難しながら推理することでサスペンス性を上げている。

・ダイイング・メッセージはYという文字が写真で提示される。実はこれはYではなく、副題が読者をミスリードしている。当然Yをイニシャルに持つ人物が疑われる。

・被害者の残したダイイングメッセージは死にかけで書かれたものなので、途中で終わっていた。本当は「と」と書こうとしており、それがYに見えてしまった。では、「と」で始まる登場人物はいるかというと、いない。

 

被害者→犯人

年野

 

・犯人は年野(ねんの)。キャンプ場で知り合った初めて会う人だったため、被害者は読み方がわからず「としの」だと勘違いしてダイイング・メッセージを残したというほとんど笑い話のような謎解きである。

・誰も嘘をついていない勘違いによる偽の手がかり問題は読者側の謎ときはまず間違いなく不可能になる。作者の恣意性が前面に出ている作品。

・作中では、カメラのフィルムが抜き取られるという事件が起こる。皆が写真に決定的な瞬間が写っていたからだと推理する。しかし、法月綸太郎の『密閉教室』と同じ発想で、フィルムへと目をむかせ、実際にはフィルムを抜き取った後の空間が重要であり、そこに被害者の指を入れていた。

・動機は好きになった女性との性交渉を目撃されたという非常に特殊な動機である。

 

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