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1.ガイダンス

 

農場から食卓までのプロセス

 

まずは、これからどういう話をしていくのか、ガイダンス的な話からしていきます。

まずは言葉の定義をしておきましょう。

食料…口にする食べ物飲み物含めすべて。そのままでは食べられない原材料もさす

食糧…穀物(主食)。コメ、小麦、トウモロコシ、豆、稗、粟など。

食品…直接食べることのできる農産物、畜産物、水産物(○…トマト、×…カップラーメン(お湯がいる))

 

 ですので、"しょくりょう"自給率は「食料」。マスコミなどはよく混同して使っていますね。

 

 さて、以下はこの講義で最も大切なことです。まずはこれを認識してください。

 「食品は基本的に、元は生き物である。」

 例外は水です。

 ちなみに、食品ではないのですが生き物由来でない食べ物は塩です。砂糖や胡椒といったその他の調味料は植物由来ですが、塩だけは生き物由来ではありません。

 

 とにかく大切なのは、「食品は基本的に生き物由来」ということです。

 これを常に考えていないと美味しくて安全な食品はできないことがありますので注意して下さい。

 

 世界全体で見ると日本では(お金を出せば)容易に美味しくて安全な食品を手に入れることができます。じゃあ、もうこういった研究をやる必要はないのかというと、そんなことはありません。今よりさらに安全な・効率的な加工・保存が求められています。

注)「効率的」というのは手早く加工・保存するという意味もありますが、無駄にエネルギーを使わずに加工・保存するという意味でもあります

 

 それでは、収穫後の農畜産物を食べる前にどのようなことをするか考えてみましょう。

調理・料理

カレーを食べる前にはスーパーでジャガイモ、ニンジン、カレールー、コメ、肉などを買ってきて調理します。

 

加工

「調理」・「料理」は「自分で」作るのに対し、「加工」は「他人」が作るものです。先ほどのカレーに対し、コンビニのサンドイッチなどは「加工」です。

すなわち、我々が口にする食べ物は何かしらの段階で「加工」を施されているものがほとんどなのです。

 

保蔵

日本ではコメを安全に一年間供給するシステムが完璧に出来上がっています(これを周年供給といいます)。ほかにもパンや麺なども一年中食べられます。

ジャガイモ、玉ねぎ、にんじん(流通用語で「いもたまにんじん」と呼ばれます)も値段は変化するものの一年中スーパーで手にすることができます。

 

 「保蔵」という見慣れない言葉が出てきました。再び言葉の定義を確認しましょう。「保蔵」とは下の「存」と「貯」をまとめた意味です。

保存…比較的短い期間農畜産物を変質しないように取っておくこと。大体一か月以内

貯蔵…比較的長い期間農畜産物を変質しないように取っておくこと。

もっとも"長い"や"短い"といった形容詞は個人の主観によるものなので厳密な定義ではないのですが。

 

 さて、しつこいようですがもう一度書きます。

食品加工工学で常に意識しないといけないことは

「対象物はすべて生物である」

ということです。

 生物なので「呼吸」をしていますし「生理活性」だってあります。死んでしまったとしても「酵素活性」があるかもしれません。

 例えばジャガイモは収穫された段階ではまだ生きています。包丁で切ってもまだ生きています(土に埋めてみてください。芽が出てきますよ)。では鍋で似てしまうとどうなるでしょうか? 酵素活性も生理活性も失活し、有機物の塊(デンプン)になります。

肉についても考えてみましょう。牛でも鳥でも豚でも屠殺した時点でお亡くなりになり、呼吸をしなくなります。しかし、生理活性も酵素活性もまだ残っています。この後-50℃で冷凍するのですが、こうしても酵素活性は残っています(低温なのであまり酵素は元気でないですが)し、その後解凍してもまだ酵素活性はあります。

こういうことを常に考えておかないと美味しくて安全な食品はできません。

 

 食べ物はどんどん品質が変化しています。この変化が都合のよい変化であれば美味しくなりますし、都合の悪い変化であれば腐ります。

 

 昔の人は調理や料理は今と似たようなことをやっていましたが、保蔵がすごく大変でした。冷蔵庫が発明されたのは200年前であり、それ以前は冷蔵庫などありませんでした。でも、保蔵ができないからといって何も食べないわけにもいきません。そこで昔の人たちが考えたのがチーズ、ハム、漬物、干物といった保存食品です。

 

 農産物加工・保存のためにすることは

 水・温度・水素イオン指数(pH)などの制御(コントロール)です。

 食品はもともと生き物でしたので当然、水を含んでいます。例えば、コメは収穫した後にカビが生えないように乾かすのですが、これは水をコントロールして品質を保つ代表例です。

 温度のコントロールには冷蔵庫に入れる、煮る、揚げるといった手法があります。

pHのコントロールは酢を加える、乳酸発酵させるなどがあります。寿司などはその代表例で、江戸時代より前は実は発酵食品(琵琶湖の鮒を米と混ぜて発酵させたもの)だったのです。それを江戸っ子が発行するのが待ちきれなくて米に酢をかけて魚と一緒に握ったものが今の寿司です。

 

 では、なぜ水や温度やpHのコントロールが必要なのでしょうか? 食べ物はもともと生き物でしたので、必ず微生物がついています。この微生物の制御のために必要なのです。うまく制御すれば発酵食品になりますし、微生物が悪さすると食べ物は腐ります。

 

 さて、基本は温度pHの三つの制御なのですが、技術はどんどん進化しており今では

・空気、気体のコントロール

・食品添加物

 他にも

・電磁波の利用

・紫外線の利用

・放射能の利用

 などがあります。

 

 

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