4.水素イオン指数(pH)、微生物(発酵)のコントロール(制御)
・前回までは水や温度をコントロールするお話でしたが、今回は微生物についてのお話です。
農作物・食品の加工法
・微生物の話に入る前に、加工法について教科書的な分類についてみてみましょう。
○物理的加工:粉砕、搗精(精白)、混合、分離、ろ過、濃縮、乾燥、加熱、冷凍
・粉砕は主に小麦粉、搗精は米に対して使われる加工法です。ろ過は微生物の除菌のため、濃縮は水分活性を下げるため、加熱は殺菌のためだけでなく調理のためにも使われます。
・例えば、肉を包丁で切るという加工も物理的加工です。食品加工会社では主に物理的加工を行っています。
○化学的加工:加水分解、酸化還元反応、コロイド化、アミモカルボニル反応(メイラード反応)
・中学生や高校生の時に学んだ化学反応を使い、色々な食品を作るために加工します。
・メイラード反応というのは糖とタンパクを加熱した時にメラノイジンというものが発生し、少し香ばしい焦げた色の出る反応のことです。パンやクッキーを焼いた時に現れるきつね色がそれです。
○生物的加工:発酵(微生物が作る酵素による化学反応)
・生物的加工は一言でいうと発酵です。微生物の作る酵素を利用した加工法で、現代ではどんな微生物がどんな酵素を作るのかだいぶ分かってきています。今では、酵素自体を人間が作れるものも多くあり、微生物を使わずに加工できたりもします。
1674年 オランダ
レーウェンフック
・ここからは微生物の歴史についてみていきます。
・オランダのレーウェンフックが1674年に細菌の観察に成功しました。これが後に色々な食品にとって重要な研究の第一歩となるわけです。
1860 フランス パスツール
・微生物が発見されてから約200年後、フランスでパスツールが微生物が発行や醸造というものに関わっているということをはっきりさせました。
・ここでパスツールは役に立たない微生物は殺したほうが良いということを提唱し、ここから殺菌の技術が発達し始めたのです。
1876 ドイツ コッホ
・1876年にドイツのコッホは感染症が最近によって引き起こされることを明らかにしました。これはあまり食品と関係ありませんが、微生物に関する発見ではかなり有名なものなので教養として挙げておきます。コッホの発見は現代では常識になっていますが、200年前に発見されたばかりで、割と新しい発見なのです。
○発酵:有機物の分解過程
微生物により(微生物が作る酵素を利用して)農産物や食品(有機物)の成分を分配し、人間にとって役に立つもの(食品、医薬品、堆肥、その他)を作る過程
発酵食品:酒類、チーズ、ヨーグルト、パン、味噌、醤油、漬物、ピクルス、酢漬け
・発酵は我々の祖先が長い歴史の中で見つけてきた技術です。味噌や醤油というのは日本だけのものではなく、色々な国々で味噌や醤油に近いものが作られています。
・漬物は本来は乳酸発酵で作りますが、スーパーなどで売ってる浅漬けは味を付けた液体の中に食材をつけているだけなので発酵食品ではありません。
・ほんの100年ほど前までは一般家庭でも漬物などの発酵食品が作られていましたが、今ではそれほど作られてはいません。パンもベーキングパウダーなるものができたので発酵させていないものもあるでしょう。
・では、発行と腐敗とは何が違うのでしょうか? 基本的に、二つは同じもので何も違いはありません。両方とも、有機物の分解過程のことなのです。
○腐敗: 微生物により(微生物が作る酵素を利用して)農産物や食品(有機物)の成分を分配し、人間にとって役に立たないもの(食べられないもの)が生じる過程。異臭、悪臭、有害物質
・微生物によって異臭や悪臭がしたり、場合によっては公害が発生したりします。
・ただし、人によっては異臭や悪臭を放つ食べ物をおいしいと感じる人もおり、嫌な臭いそのものが危険というわけではありません。
・醤油や味噌といった発酵食品はかなりの量を一年中安定供給する必要がありますので、微生物を活発にさせなければいけません。そのためには、水分活性やpH、温度を成業する必要があります。この辺りについては食品加工というよりも発酵工学や応用微生物学の分野になりますので、ここでは詳しくは触れません。
・食品が発酵するとpHが下がります。これは酢酸菌や乳酸菌が出て酸性になるからです。そして、pHが下がると、通常の細菌にとって住みにくい環境になることを意味しますので、発行は微生物を制御するための手段でもあります。最近は発酵させる手間を省くためにお酢を直接食品に入れてpHを下げたりします。(昔と違い、現代では発酵させずにお酢を作ることができる)。
・琵琶湖の鮒と米を1~2年発酵させて酸っぱくした料理に鮒鮨というものがあります。かなり強烈なにおいを発しますがなれればおいしいと感じる人もいるようです。これが寿司の起源です。
・現在ではお寿司は炊いたご飯に酢を入れているだけです。これは、江戸時代に生み出された方法で、江戸っ子は気が短く発行させるのが面倒で酢を直接ぶっかけたことが元です。寿司屋で「江戸前寿司」なるものがありますが、当時は冷蔵庫が存在せず、太平洋の魚を江戸で食べることはできませんでした。そのため、江戸で食べることができたのは江戸前にある東京湾の魚だけ。これが江戸前寿司の語源で今の握り寿司の元でもあります。
・アルコール発酵させてから酢酸発酵させるという酢を作る技術というのは平安時代からありました。
・お酒の歴史も酢同様古く、メソポタミア文明にもビールのもとは存在しました。少なくとも5000年前、もしかしたら10000年前にできかけていたと思われます。日本酒も2000年前、縄文時代の終わりには日本儒に似たようなものがあったかもしれないと考えられています。
有機酸の抗菌力
プロピオン酸>酢酸>コハク酸、乳酸>リンゴ酸>酒石酸、クエン酸
・先ほどpHを下げると菌がおとなしくなるという話をしました。そのため、有機酸を食品の保蔵に使ったりすることがあります。また、ただ保蔵するだけでなく、酸味を加えおいしくするという目的で使われることもあります。
・同じ酸でも抗菌力の違いがあります。
世界の臭い食べ物ランキング(発酵食品)
・腐敗した時には悪臭を発することもありますが、中には臭いものを好む人がいるという話を先にしました。発酵食品の中にはいい匂いのものとそうでないものがありますが、今回は臭いものをご紹介します。
5.くさや、日本、1267
・まずは第5位から発表します。これには日本の食品がランクインしました。くさやとは、日本の伊豆諸島で作られるムロアジ、トビウオを魚醤(魚を発酵させて作った醤油のようなもの)につけて作る伝統的な料理です。
・臭気指数という数値があり、匂いの強さを表す数字(臭いものに限らない)です。くさやは1267という値のようです。大体一般的な住宅地域の臭気指数が10~15となります。納豆はかわいいもので452です。
・発酵食品でない臭いものとしてはドリアンが有名ですが、実際はそれほど臭くはありません(熟す程度により臭いはかなり変わってくるとは思いますが)。
4.キビヤック、アラスカ
・グリーンランドに住みイヌイットたちが、アザラシのおなかの中にウミスズメを入れて発酵させた料理です。食べたことがないので何とも言えません。
3.エピキュアーチーズ、ニュージーランド
・熟成させたチェダーチーズを缶詰で発酵させたチーズです。こちらもまだ食べたことがありません。
2.ホンオフェ、韓国、6230
お隣韓国で作られる、エイの切り身の発酵食品です。強いアンモニアのにおいがします。韓国人に言わせるとマッコリとかの強いお酒と飲み込むとおいしいらしいです。
1.シューールストレミング、スウェーデン、8070
・これは有名なので知ってる人も多いでしょう。ニシンの塩漬けの発酵食品です。
・普通、缶詰は缶に入れた後に熱殺菌するのですが、それをあえてせずに発酵させます。すると、缶は圧力によって膨らみます。
・日本では商業的輸入は禁止されていて、開けるときは特別な防護服を着て開ける必要があります。
・臭気指数は8070でくさやの6.3倍、納豆の17.9倍臭いが強いことになります。