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農産物・食品加工工学:食品添加物の誤解

 

・今回は食品添加物の話をします。

・タイトルは「食品添加物の誤解」です。「いったいどんな誤解をしているというのだ」と思われる方もいると思いますが、今回の話を読んでもらえればわかるかと思います。

 

みなさんは「食品添加物」に対してどのようなイメージを持っていますか?

・なんとなく危なそうなので「無添加」の食品のほうが安全だろう

・食品添加物は「安全」と言われていても「安心できない」

 

・でも、世の中には無添加とうたっている食品でも本当の意味で無添加というのはほとんどありません。たいてい「保存料無添加」とか「着色料無添加」といったように食品添加物のうちの一部が入ってないことを示すだけです。本当に無添加な食品なんてジャガイモくらいです。オレンジなどにも表面に防カビ剤が塗られています。

 

ⅰ.言葉の定義

ⅱ.食品添加物

ⅲ.水で野菜を殺菌

ⅳ.保存料・日持ち向上剤の効果を予測する

 

・今回の話は以上の順に行っていこうと思います。ちょっと長くなってしまいますので、ⅲとⅳは次回に回します。

 

言葉の定義

安全」と「安心

 

安全は「障害を起こすリスク要因に対して事前及び事後の対策が施され、障害の発生を未然に防ぐことができる、または障害の程度を許容範囲に止めることができる状態を指す」

 

安心は「個人の主観によって決まるものであり、「安全」であると信じている状態

 

・よく「安全」と「安心」をひとまとめにしますが、ここにそもそも大きな間違いがあるのです。

・2004年の厚生労働白書では安全と安心は上のように定義されています。

 

「安全」対「危険、危害」

科学的データに基づいて評価した客観的なもの

「安心」対「不安、心配」

個人の主観によって決まる心情的なもの

不安が高まると、根拠のない風評被害が発生

 

・例えば、決して安全ではないと分かっているのに不安に思うことのない食品があります。タバコですね。タバコがこの世に存在する食品史上トップクラスで危険なものだということは分かっているにもかかわらず平気でタバコを吸います。「危険」だけど「安心」なのですね。

・また、先の震災の影響により、福島の農産物は危険だという心証が強まっています。実際に危険なものを我々が手に入れることは難しく、「安全」な農産物しか食べることはないのですが皆福島という名前を聞くと「不安」と思ってしまうんですね。

 

危険性、リスク(Risk)

=危害の大きさ(Hazard)×確率(Probability)

・リスクは「ある」か「ない」かではなく「大きい」か「小さい」かの問題

・社会においてリスクが完全に0ということはない

・社会において、完璧に安全ということはない

 

・食べ物も原発もリスクを小さくすることはできますが、0にすることは不可能です。

・絶対に安全な食べ物なんてありません。水でも大量に飲めば体に異変をきたしますし、米を食べすぎれば肥満になりメタボになって早死にします。

 

危険性と便益・恩恵のバランス

危険性のトレードオフ

 

・危険性と便益、恩恵のバランスの問題を考えることは非常に重要です。

・例えば、日本国内だけでも自動車は年間4000人もの人間を殺しています。しかし、車の便益が大きいので社会が車の存在を認めているのです。

・食品添加物も量の問題、濃度の問題で危険性はほぼゼロに近く、食中毒を起こさないことのほうが大切であるのです。

・食中毒での死者は年に複数人いますが、食品添加物による死者は年に一人も出ません。

・危険性のトレードオフを考えることも重要。

・日本の水道水は基本的に安全ですが、それは塩素消毒をしているためです。1970年代にオランダとアメリカで、水道水には発がん性物質のトリハロメタンが含まれていることが報告されました。水道水は川の水を浄化しているものなので、完全な純水ではありません。当然浄化する前の段階では有機物が混入しており、その有機物が消毒用の塩素と反応してトリハロメタンができてしまったのです。これに真っ先に反応したのがブラジルでした。ブラジルは、水道水の塩素消毒をやめてしまったのです。すると、ブラジルではコレラや腸チフスといった病気が大流行したのです。その後、ブラジルでは再び塩素消毒が行われることになりました。今では多くの国で塩素消毒が行われており、水道水に含まれるトリハロメタンは完全にゼロではありません。しかし、含まれるトリハロメタンは非常に微量であり発がん性の危険はほぼないと判断されたために塩素消毒は行われています。

 

食品添加物の話

・食品添加物は、保存料、甘味料、着色料、香料など、食品の製造過程や製造後の食品の保存性や品質を向上させる目的で使用されるもの

・食品衛生法により、使用することができる食品添加物が定められており、それ以外の物質は食品に使うことができません

 

ポジティブリスト制度

食品衛生法、食品添加物や残留農薬

ネガティブリスト制度

刑法、道路交通法

 

・食品添加物は、保存料、甘味料、着色料、香料といった、食品の製造過程や製造後の食品の保存性や品質を向上させるために使われるもので、食品衛生法という法律で使用することができるものが決まっています。そこに書かれていないものは使うことができません。

・新しい物質が発見されたら、安全かどうかの厳密なテストを行ったうえでリストに載るかどうかが決められます。

・ポジティブリストとは、これはOKというもの(ものによっては濃度や量などの制限付き)をリストアップし、これに乗っていない物質は使ってはいけないよということを示したものです。食品衛生法はポジティブリスト制です。

・逆にネガティブリストとはこれはやってはいけないということをリストアップしたものです。人を殺してはいけない、人を殴っていはいけない、ここに書いてないことでしたらあなたの行動は自由です。刑法や道路交通法などがこれに当たります。

・以前は食品衛生法もネガティブリスト制だったのですが、ここに載っていないものは何でも使っていいのかという議論になり、ポジティブリスト制へと移行しました。

 

食品添加物の種類

1.指定添加物(438品目)

安全性を評価したうえで、厚生労働大臣が指定したもの(L-アスコルビン酸(ビタミンC)、ソルビン酸、乳酸、二酸化炭素(炭酸ガス)、レチノール(ビタミンA)、キシリトールなど)

 

・食品添加物にはどんな種類のものがあるのかを見ていきましょう。

・まずは、指定添加物。安全であるのかを検証したうえで、使用が認められている物質たちです。

 

2.既存添加物(365品目)

平成7年(1995年)の法改正の際に、我が国において既に使用され、長い食経験があるものについて、例外的に指定を受けることなく、使用や販売などが認められたもの(クチナシ色素、柿タンニン、カテキン、カフェイン、カラメル、ヒアルロン酸、木炭など)

 

・これは長い間人類が摂取し続けてきたものなので多分安全だろうという観点の下、安全かどうかの検査をしていない物質群です。ですので本当に安全かどうかはわからないのですが100年以上人間達が食べ続けてきたものなので多分大丈夫でしょう

 

3.天然香料(約600品目)

動植物から得られる天然の物質で、食品に香りをつける目的で使用されるもの(バニラ香料、カニ香料、ウコン、マスタード、酒粕、黒糖、高麗ニンジン、糖蜜など)

 

・これらは頭に”天然”とついていることから、安心だと思われている者たちです。もちろん上の物たちは安全なのですが、天然とついているからと言って安全なものとは言えません。天然の物質には危険なものもたくさんあります。例えばジャガイモの芽にはソラニンという毒がありますし、表面の皮の緑色の部分にもソラニンが含まれています。

 

4.一般飲食物添加物(約100品目)

一般に飲食に供されているもので、添加物として使用されているもの(イチゴジュースなど各種果汁、寒天、ココア、コラーゲン、サフラン、抹茶、マンナンなど)

 

・これらはもうすでに食べ物として食べていて、それらを添加物として使った場合にはここに分類されているのです。

・この中で多くの人が「危ないんだろうな」と思うのが最初に挙げた指定添加物です(実際はそんなことはないのですが)。既存添加物は長いこと使ってるし、天然香料は天然だから大丈夫。一般飲食物添加物は食品だからという感じですね。

 

食品添加物の用途による分類

(1)食品の製造に必要なもの(製造用剤)

 

・では今度は用途による分類です。

・まずは食品の製造に必要な添加物。この添加物を使わないと絶対に作ることができないといった添加物です

 

1)豆腐の凝固剤(にがり、すまし粉、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、グルコノデルタラクトン

 

・これらがないと豆腐を作ることはできません。もちろんこれらは使用が認められている物質です。

 

2)炭酸飲料やスパークリングワインなどの炭酸ガス(二酸化炭素)

 

・本物のスパークリングワインは発酵による二酸化炭素発生ですが、安物のスパークリングは二酸化炭素を吹き込んで作っています。

 

3)ラーメンの梘水(かんすい)(炭酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム)

 

・ラーメンを作るときに梘水を入れないとうどんやそうめんと同じものになります。

 

4)マーガリンの乳化剤(レシチン)

5)ビスケットの膨張剤(イースト、重曹(炭酸ナトリウム)、ベーキングパウダー)

6)油脂の抽出溶剤(ヘキサン)

 

・そのほかにも上のようなものがあります。

 

(2)食品の保存性を良くし、食中毒を予防するもの、保存性向上、食中毒予防

1)保存料、防かび剤(ソルビン酸、プロピオン酸カルシウム、ジフェニル、安息香酸)

 

・この”保存料”というのが「食品添加物は危険だ」と叫ぶ人たちのやり玉に真っ先に挙げられる添加物です。しかし、食中毒を予防するためには非常に大切なものなのです。

 

2)殺菌剤(さらし粉、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸水)

3)酸化防止剤(亜硫酸ナトリウム、クエン酸磯プロピル、L-アスコルビン酸(ビタミンC))

 

・酸化防止剤というのは酸化されやすいものですね。自分が先に酸化されてしまうことで、食品自体の酸化を防いでいるのです。

 

(3)食品の品質を向上させるもの、品質向上

1)乳化剤(レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、水酸化カリウム、ポリソルベート)

 

・乳化剤は食べ物をふわっとさせる働きがあります。

 

2)増粘剤、安定剤、ゲル化剤、糊料(アルギン酸ナトリウム、カゼインナトリウム、メチルセルロース、寒天、ペクチン)

 

・安定剤とは乳化剤で乳化させたものを安定化する役割のある食品添加物です。

 

(4)食品の風味や外観をよくするもの、風味向上、外観向上

1)着色料(β-カロテン、食用赤色、食用黄色、食用緑色、食用青色)

2)発色剤(亜硝酸ナトリウム、硝酸カリウム)

3)漂白剤(亜硫酸ナトリウム、二酸化硫黄、ピロ亜硫酸カリウム)

 

・以上三つは色がついて食品を綺麗に見せるなだけなので、別に無くてもいい食品添加物です。

・特に着色料がやり玉にあがるのですが、定められた濃度の範囲内で使えば発がん性などの危険性はゼロに近いです

 

4)酸味料(酢酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、氷酢酸、グルコン酸ナトリウム)

5)甘味料(アスパルテーム、キシリトール、サッカリン、サッカリンカルシウム、甘草)

6)調味料(グルタミン酸、イノシン酸、酒石酸ナトリウム)

 

・グルタミン酸やイノシン酸といったものは旨み成分の元として有名です。

 

7)香料(各種天然香料、芳香族アルデヒド類、ヘキサン酸、フェノール類)

 

・ここで挙げたものは、食品を綺麗に、美味しくするためのものですので、必ずしも必要な食品添加物ではありません。

 

(5)食品の栄養価を補充強化するもの、栄養強化

1)ビタミン(チアミン類(B1)、リボフラビン類(B2)、アスコルビン酸類(C)、レチノール(A)、カルシフェロール(D))

2)アミノ酸(リジン)

3)ミネラル(カルシウム類、鉄類、亜鉛類、銅類)

 

食品添加物の安全性評価

一日摂取許容量(ADI)

人が生涯その物質を毎日摂取し続けたとし

ても、健康への悪影響がないと推定される

一日当たりの摂取量(mg/kg/体重)

 

・食品添加物の分類についてみたところ

で、今度はその安全性の話をします。

・安全性の話で大切なのは一日摂取許容量(AD

I)という数値です。これは、人間が一生涯にわ

たってその物質を摂取し続けたとしても健康

被害が現れない量のことです。

・ADIはのちに述べる無毒性量を安全係

数で割ることによって求められます。

 

安全係数

=10(動物の人間の違い(種の違い))

×10(大人と子供、男女、体重の違い(

個体差の違い))

=100

 

・まず、その物質が安全か否かを確認するた

めに動物実験をします。その実験でここまで

なら安全だよという無毒性量がわかるのです

が、「動物には安全かもしれないけど人間に

とっては危険かもしれない」という人もいるので、それをさらに1/10にします。

・また、同じ人間でも「大人では安全かもしれないけど、子供には害があるかもしれない」ということをなくすため、ここでも1/10にします。

・10×10=100。つまり、無毒性量の1/100を許容一日摂取量とするのです。

・この10という数字は何かしらの科学的な根拠があるわけではなく、過去の実験例から10倍の措置を取っておけばまず間違いなく大丈夫だろうと考えられた数値です。

 

無毒性量(NOAEL)

定義:動物を使った毒性試験において、何ら有害作用が認められなかった容量レベル

 

・その物質が安全かどうかを確認するためにいろいろな実験をいろ

いろな動物で行います。

・例えば、実験を行い、右図のような結果になったとします。

・この時、最も少ないものは実験Ⅲの0.06という値なので、これを

無毒性量とします。

 

ADI

定義:人が生涯その物質を毎日摂取し続けたとしても、健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量(mg/kg/体重)

ADI=NOAEL÷安全係数

0.0006=0.006÷100

 

・さて、NOAELと安全係数がわかりました。これでADIを算出できました。

・よくお役所は「直ちに健康被害が出るものではありません」といったような文句を使います。実はこれにはちゃんと科学的な根拠があったわけですが、あまり皆さん信用しようとはしませんね。

・2008年に事故米不正転売事件がありました。メタミドホスという農薬を使ったお米やカビの生えたお米を売った事件です。メタミドホスは基準では0.01ppmしか検出してはいけないのに、そのお米には6倍の量0.06ppmメタミドホスが検出されたのです。しかし、こういった基準はADIよりもずっと下に設置されており、毎日そのお米を185g(おにぎり3.7個分)を一生食べ続けたとしても、ADIの1/3ほど。つまり、無毒性量の1/300に過ぎません。こういったことを当時の農林水産省は説明して「直ちに健康被害が出るものではありません」と発表したのですが、多くの人は「基準値を超えたのにどうして安全なんだ」と信用しなかったのです。

 

食品添加物の一日摂取量の調査(厚労省)

 

・毎年どんな添加物がどのくらい口に入るのかを厚生労働省が調べています。結果はホームページでも公開しているので興味のある方は見てみるといいかもしれません。

 

マーケットバスケット調査

マーケットバスケット方式とは、スーパーなどで売られている食品を購入し、その中に含まれている食品添加物量を測定し、その結果に国民栄養調査に基づく食品の喫食量を乗じて摂取量を求める方法

 

・厚生労働省はマーケットバスケット方式という、スーパーで売られている食品を購入して、その中に含まれている食品添加物の量を調べるという方法で調査を行っています。この調査の結果、ほとんどの食品において、その中に含まれている食品添加物の対ADI比は1%以下であることが分かっています。つまり、無毒性量の1/100の1/100です。

 

安全で健康な食生活のためにはどうすればいいの?

 

・食品添加物が原因で病気になることは今のところないとされています。

・「複数の添加物を摂取しておなかの中で混ざって毒物を生成することはないのか?」という不安を抱く方もいるかもしれません。確かに、すべての添加物を組み合わせての実験は行えていませんが、何らかの反応で毒性が検出されるものは認められてはいないのでまず大丈夫でしょう。

 

いろいろな食材や食品を偏りなく食べる(偏食をしない)

 

・とにかく、大切なことは、偏食をせず、まんべんなくいろいろな食べ物を食べることが健康のためには大切だということです。

・僕の友人で、バラエティに富んだものを食べているという人がいました。ある時は、塩、ある時は醤油、ある時は豚骨。ある時は、そば、ある時はうどん、ある時はラーメン。なんとその人は毎日毎日バラエティに富んだカップ麺を食べていたのです。当然一か月ほどで体調に異変をきたし病院に行きました。

 

できれば、タバコは止める

お酒は適量にする

楽しく食事をする

 

・やっぱりタバコは体に悪いです。この世の食品の中で明らかにダントツに危険な食品です。ちなみにたばこの発がん性のリスクは保存料の発がん性のリスクの2240000倍もあります。

・お酒も体にはよくないです。アルコールが分解されてアルデヒドという物質になりますが、これは発がん性物質です。ただし、適度に飲めば長生きできるという統計データもあるので、適量に楽しみましょう。

 

食品添加物は豊かで安全な「食」の供給のために役立っています

 

・今回はこの辺にしておきましょう

 

参考

http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/dl/pamph_10.pdf

 

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