わたしとミステリ
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1.イントロダクション
名称で見る歴史
・この「日本探偵小説研究」のテーマはずばり「八十年代以降の日本のミステリ」。
・探偵小説では呼び方も色々あり、時代とともに変化してきた。イントロダクションでは初めに、その名称で歴史を見ていく。
探偵小説→推理小説
・detective storyが翻訳され、「探偵小説」として日本に入ってくる。そして戦後、推理小説と名前を変わった。
・戦後には使える漢字が制限された。探偵小説の”偵”の字が常用外漢字となったため、推理小説という名称になった。
・この「探偵小説」という呼び方が一般に定着するのは松本清張以降。
清張以降(リアリズム)
社会派の誕生
・当時ミステリは「名探偵は現場にもいかず話を聞いただけで名推理するが、そんな人間なんて現実にはいない」という批判があり、嘘くさい物語という認識があった。
・清張曰く「お化け屋敷のようなミステリーではだめだ」。
・松本清張は推理小説に現実らしさ(リアリズム)を追求し、犯罪それ自体ではなく、それを引き起こす社会背景を描いたりする社会派と呼ばれる推理小説を書く。
・実際に松本清張の作品には名探偵が登場する作品は少なく、出てきたとしても警察関係者など違和感のないように、物語が嘘くさくならないようなものである。
・「社会派探偵小説」という言葉はさっぱり聞かないが「社会派推理小説」や「社会はミステリ」は通りが良い。
・これは後に触れる本格ミステリ批判とも関連する(本格ミステリ↔変格ミステリ)。本格ミステリという言葉は1920年代後半から出てきた言葉である。
江戸川乱歩とミステリ・本格→変革(人間心理の異常性)
cf)甲賀三郎
・江戸川乱歩の登場により、本格ミステリという言葉が定着する。
・しかし、その後ミステリは本格よりも変格が主流になっていく。
・江戸川乱歩はデビューして初期の1920年代には本格ミステリを執筆していたが、その後、論理よりも人間心理の異常性を、推理よりも猟奇的な事件を描くようになる。
・この時代は変格ミステリが量産された。
80年代:本格ミステリの復権
島田荘司『本格ミステリ宣言』(1989)
島田荘司による本格ミステリの定義「神話の果てのミステリー」
cf)ポー
・本格ミステリが復権する。その仕掛人となったのが島田荘司。
・島田荘司の著書『本格ミステリ宣言』では80年代当時のミステリの状況がよくわかる。
・『本格ミステリ宣言』の中では当時「本格ミステリ」という言葉が流通していたが、これは社会はミステリを出版社が売り文句として「本格ミステリ」と呼んでいたそうである。島田は本格の使い方を誤っているとしており、新しく「推理小説は新興のジャンルではなく、神話の果てのミステリー」だと定義している(この定義には島田的バイアスがかなりかかっているが)。
・島田の定義の論拠は面白い。「モルグ街の殺人」(1841)に代表される、ミステリの生みの親としても名高いポーは、ミステリーの生みの親であるだけではなく、幻想小説の生みの親であるといい、ミステリーはファンタジーと非常に親和性が高いことを述べている。
・島田は幻想的な本格ミステリを理想としていた。リアリズムを完全に否定する。
・島田はさらに「推理小説」と「ミステリー」を分類した。
ミステリー≠推理小説
・島田は「ミステリー」とは「」。「推理小説」とは「高度な論理性を有する小説」であると分類した。この「推理小説」には社会派も含まれており、社会派推理小説は島田も認めたことになる。
1987 新本格の誕生(島田荘司のバックアップと京大ミス研)
・探偵小説史において一つのメルクマールとなる時期である。
・1987年以降本格ミステリが非常に多く書かれていくことになる。
・その代表が『十角館の殺人』でデビューした綾辻行人である。
・島田荘司が京都に取材旅行に行った時に偶然京都大学推理小説研究会と出会い、島田のバックアップを受け綾辻行人を初めとし、法月綸太郎、我孫子武丸、麻耶雄嵩などが次々とデビューした。
1974 京極夏彦デビュー
・探偵小説史における二つ目のメルクマール。
・京極夏彦が『姑獲鳥の夏』にてデビュー。出版社に直接持ち込んだ原稿で、編集者が京極を有力な覆面作家だと勘違いしたほど秀逸な原稿であった。
・その後、有栖川有栖、森博嗣、西澤保彦がデビューしていく。
ゼロ年代 メフィスト賞の誕生
脱格系(↔新本格)
・2000年代になり、脱格系という新本格に対するミステリーが誕生する。脱格系は論理的ななぞ解きをはなから捨てたミステリである。
・代表的作家は清涼院流水、西尾維新、舞城王太郎、佐藤友哉であり、これらはすべてメフィスト賞を受賞してデビューした作家である。
大まかな歴史をさらったところでイントロダクションはこのあたりで。
次回「2.島田荘司と本格ミステリ宣言」では『占星術殺人事件』と『斜め屋敷の犯罪』、『奇想天を動かす』(以上、島田荘司)、『Yの悲劇』(エラリー・クイーン)のネタをばらすので、未読の方はご注意ください。
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