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3.温度のコントロール(制御)

 

・微生物をいかにコントロールするかが食品の加工、保存、安全のためには大切です。まずは、微生物に関する言葉から確認していきましょう。

 

芽胞、芽胞菌

 

・微生物をかじったことのある人ならだれでも知っている言葉です。芽胞とは微生物の耐久性の強い形態のことで、芽胞菌とは芽胞を形成する菌のことです。

・芽胞菌はある状態ではばんばん増殖するのですが、ある状況下に置かれると身の回りを守り、周囲の環境に耐えうる形に変身します。これは食品にとっては困ったもので、菌が殺しにくいのです。

・芽胞菌としては、納豆菌や炭疽菌、ボツリヌス菌などがあります。納豆菌はそんなに悪さをする菌ではないのですが、炭疽菌やボツリヌス菌はやばい奴らで、対処を間違えると命を落としかねません。

 

高温耐熱性菌

 

・この場合の高温とは100℃以上のことです。100℃を超えても死なない菌のことを高温耐熱性菌といいます。

 

高温性細菌 50℃

中温性細菌 35~40℃

低温性細菌 20℃

かび 25~35℃

酵母

 

・高温性細菌とは50℃前後でどんどん増殖する菌のことです。

・中温性細菌とは35℃から40℃位でどんどん増殖する菌のことです。

・低温性細菌とは20℃前後でどんどん繁殖する菌のことです。人間も20℃前後が一番快適なのでこいつらに近いところがあるかもしれません(笑)。

・最近以外にも微生物は存在し、カビや酵母などがいます。こいつらは25℃から35℃位の温度で増殖します。

・これらの菌は60℃以上では生きていけません。0℃以下でも生きていくことはできますが増殖はしなくなり、また快適な温度に戻った時に再び増殖を始めます。

 

1.低温(10~15℃以下)

 

・我々は加工や保蔵のため、意図的に様々な温度を使っています。まずはそれらを低い温度から見ていきましょう。

 

・微生物の増殖抑制

 

・微生物は温度が低くなると増殖しにくくなります。

 

・農産物の呼吸の抑制

 

・農産物は収穫後も生きているので呼吸をしています。温度を下げることにより呼吸を抑制します。

 

・化学反応(酵素反応)の抑制

 

・生物の中では酵素反応が起こっています。温度を下げることによって酵素反応を抑制し、農産物を長期保存しできるようにします。

・冷蔵庫が発明されたのは150年も前の1800年代中旬のドイツです。それまで人間は低いほうの温度をコントロールするすべを持っていなかった(高いほうの温度は火を使っていた)のでよく腐ったのではないでしょうか。

 

青果物の呼吸の温度係数(Q10)

10℃の温度変化→呼吸の変化

Q10=2~3

 

・Q10とは呼吸量を表す指標です。なぜQというアルファベットが使われているのかは知りません。

・野菜や果物の話ですが、ほとんどのがQ10=2~3です。これは「温度を10℃下げると呼吸量が1/2~1/3になる」という意味です。

 

バナナ、マンゴー、メロン

低温障害

 

・冷やす話ばかりを続けてきましたが、我々が食べる食べ物の中には冷蔵庫に入れてはいけないものもあります。それはバナナ、マンゴー、メロンといって熱帯、亜熱帯原産の青果物です。これらを冷やすと生理活性がおかしくなって食べ物が悪くなってしまいます。これを低温障害と呼びます。

・例えばバナナを冷蔵庫に入れると2、3日で皮が黒くなり3、4日で中身まで黒くなりぐちょぐちょになってしまいます。

・メロンはバナナほど早く悪くなるわけではありませんが、2週間ほど冷蔵庫に入れておくとゴルフボールのようなくぼみが出て変色します(ピッティングといいます)。冷えたメロンが食べたい場合には、食べる半日前くらいから冷蔵庫に入れるのがよいでしょう。

 

                          水 0℃

                          サラダ菜 -0.4℃

                          牛乳 -0.5℃

                          トマト -0.9℃

                          ブリ -1.2℃

                          オレンジ -2.2℃

                          バナナ -3.4℃

                          くり -4.5℃

 

                                                                                         

 

 

グラフは

http://www.nissui.co.jp/academy/taste/09/03.html

より引用

 

 

 

               

・冷凍は農産物を長期保存するための技術で、ものを凍らせるのは冬の寒さを利用して300年前でも可能でしたが、意図的に凍らせることはできませんでした。

・ミックスベジタブルなどの冷凍野菜がありますが、これは0℃で凍るわけではなく0℃より少し下の温度で凍結します。水は0℃で凍りますが、これより少し下の温度帯は凍結帯と呼ばれます。

・右上に各食品が何度で凍るの列挙しました。凍ることのできる自由水がたくさん含まれているかどうかが温度が異なる原因です。

・凍るとき、液体から個体になるときに発生する熱(潜熱)により、冷却のスピードが遅くなります。0~-5℃の間をゆっくり通ると氷の結晶がたくさん発生してしまいます。氷は水よりも体積が大きいので、食品の細胞を破壊する、つまり食品が柔らかくなってしまうのです。

・冷凍食品を解凍した時に、柔らかすぎておいしくないものを食べたことはないでしょうか? あれは、冷凍に失敗して柔らかくなってしまったものです。

・素早く凍らせることは品質の良い冷凍食品を作る大切な技術の一つです。その方法として、例えば液体窒素(-198)

 

 

2.中温(20~50℃)

 

・この温度ではまだ調理や料理のレベルには達しません。

 

・発酵

 

・微生物は人間にとって良いほうにも悪いほうにもかかわりますが、良いほうにかかわってくれた微生物のこと(悪いほうは食中毒菌と呼びます)です。

・発酵食品の歴史は長く(5000年以上!!)、パンやアルコールなども発酵食品です。冷蔵庫のない時代のメインの保存方法でした。良い微生物だけをうまく生かす方法です。

・チーズやヨーグルトも発酵食品です。フランスのパスツールが微生物を発見したことにより、それまでなぜ腐るのかわからなかった原因を突き止めることができ、牛乳の殺菌方法が確立されました。

 

3.高温 60℃以上

 

・微生物は60℃以上から殺菌が可能になり、多くの酵素もこの温度から失活していきます。

・ここからは調理、料理にかかわる温度帯です。

 

ブランチング

 

・良い冷凍野菜を作るためには普通に温度を下げるだけではできません。野菜は酵素活性を持っているため、凍結させる前に酵素を失活させたほうが良い食品となります。

・80℃から90℃位のお湯につけ(どのくらいつけるのかはものによります)、そのあと急速凍結すると新鮮な色や香り、ビタミンなどがそのまま保存されます。

 

滅菌…完全に殺す

殺菌…一部の菌を殺す

静菌…増やさない

除菌

抗菌

 

・ここからは菌の話になります。

・滅菌とは食品の中にいる菌を全滅させることです。悪い菌だけでなく、役に立つ菌まで完全に殺します。もはやここまでくると100℃なんかでは無理で150℃まで温度を上げたり、圧力をかけたりします。ここまで徹底的にやれば何年も保存が可能で、基本は缶詰ですね。ただし、10年以上たつと微生物による品質の劣化はありませんが、食品自体が劣化するので危険ではありませんが美味しくなくなります。

・殺菌とは一部の菌を殺すことです。どの程度が一部化はその食品に依ります。必要以上の殺菌はしないという考えの下で行われます。例えばO157はたった3、4体でもやばいのですが、ボツリヌス菌は数万体いなければ大丈夫ですので、後者はそれほど殺さないのです。

・静菌とは菌を増やさないことです。よく静菌グッズが売ってますね(効果があるか否かは不明)。

・除菌とは、フィルターや濾過膜を使って菌を取り除くことです。代表例は生ビールです。生ビールとは熱殺菌していないビールのことですので、まだ酵母が生きています。その酵母をフィルターで取り除いているのです。日本酒も65℃で殺菌(火入れと呼びます)しますが、それをしない日本酒を生酒と呼び、同じように除菌します。

・抗菌という単語は定義があいまいです。INAXやTOTOが好きな言葉ですね。

 

 

 

 

・ちなみに果物は100℃以上で殺菌すると変化してしまいますので、低い温度で長い時間殺菌します(水産物の缶詰は100℃で殺菌)。

・レトルトパウチ食品は、アルミニウムでラミネート加工し、レトルトと呼ばれる高温蒸気釜で滅菌したもので、半年から1年間は持ちます。

・日本の牛乳の95パーセントが超高温殺菌(UHT法)です。ロングライフ牛乳は日本ではほとんど作られていません。台湾では酪農が盛んではないので、ニュージーランドから牛乳を輸入するのですが、飛行機で運ぶとコストがかかるので、船で運んでいます。船で運ぶと時間がかかってしまい、すぐに腐ってしまうのでロングライフ牛乳を作っているのです。日本の牛乳の賞味期限は10日から14日くらいですね。

・180,190℃となるともう調理、料理の世界です。メイラード反応とは、熱により有機物化したときに褐変(焼き色)し、良い香りがすることです。お好み焼きやたこ焼きなんかがわかりやすいのではないでしょうか。

・糖質とタンパク質を加熱するとアクリルアミドという発がん性の物質が出てきます。これについては食品安全委員会が公表している、次の資料に基づいて説明していきます。必要なところは切り貼りしていますが、全体像が読みたいという方は以下よりダウンロードしてください。

 

加工食品中のアクリルアミドについて - 食品安全委員会

 

 

 

 

 

 

・これは当時一時的にパニックを起こしたそうです。

・デンプン系の食品を150℃以上で加熱すると発生し、主なものとしてはポテトチップスやフライドポテト、デンプン系食品のてんぷらなどに含まれています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・アクリルアミドというものは未知の物質ではなく、昔から使われている物質です。そして、昔から危険ということはわかっていました。

 

 

 

 

 

 

・”おそらく”と聞くとなんだかあいまいなイメージを受けるでしょう。ですが、この言葉は分類の正式な言葉です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・上から見ていきましょう。アフラトキシンというのはカビによる毒で、史上最強の発がん性物質とも呼ばれています。これを防ぐために穀物を船で運ぶ際に農薬をまくこともあります。タバコは一般の人が食べるものの中で明らかに毒があるとわかっているものです。

・2Aにアクリルアミドは位置していますね。

・2Bに登場するわらびや山菜ですが、これにも発がん性を示す可能性があるそうです。しかし、同じレベルのコーヒーは多くの人が飲んでいるので特別心配することはないでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

・アクリルアミドは以前から危険だというのはわかってました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・直ちに健康被害が出るわけではないので大丈夫でしょうということです。東日本大震災で原発が壊れた時、日本政府が「直ちに健康被害が出るわけではない」という言葉を乱発したので、この言葉への信頼度は低いですが、アクリルアミドの件に関してはしっかりと科学的根拠があります。

・(1)はアクリルアミド以前の問題です。毎日フライドポテトを食べたりポテトチップスを5袋くらい食べたりすればアクリルアミド以前の問題で健康被害が出ます。

・アクリルアミドの問題では主にジャガイモがやり玉に挙げられました。ただし、今では糖を増やさない貯蔵方法が確立されており、徐々に普及してきています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・これらの値はすべて実測値です。フライドポテトなどは最大値と最小値の間に大きな開きがありますが、たとえこの最大値であったとしてもこんな程度ではすぐに健康被害につながることはないでしょう。

・生のジャガイモに至っては最大値でさえ検出限界以下の数値となっています。

・まとめとしては「普通の食生活をしている分には健康を害することはない」というところでしょう。

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