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7.お酒(アルコール飲料)のはなし

下戸(げこ、お酒に弱い人)と上戸(じょうご、お酒に強い人)

 

・今回はお酒のはなしをします。

・僕自身お酒についての深い専門知識を持っているわけではありません。では、なぜお酒のはなしをするのかというと理由は二つあります。

・一つは、お酒も加工食品の一つで、発酵という技術を使って作られた食品だからです。

・お酒を飲んで急性アルコール中毒になって「困った!」となり、救急車を呼んだ場合、これは「お酒による事故」ということになります。残念ながら、僕の所属する大学では全国の大学の中でお酒による事故で救急車で運ばれる人の数がダントツで多いです。キャンパス内でお酒による事故が起こった場合は大学病院に運ばれるのですが、その数があまりにも多いので、本来は患者についての情報を守る義務があるのにもかかわらず、病院側は事故にあった学生の学生番号を公表するという手段をとっているほど多いです。そこで、もう一つの理由は、皆さんにお酒のことを理解してもらいたいという思いから今回はお酒のはなしをします。

・お酒に興味のある人は、『食品加工学 第2版―加工から保蔵まで』のp90-95を読むとよいでしょう。面白いことがいろいろと書かれています。

 

微生物(細菌、酵母、カビ)の利用。発酵工学、応用微生物学

発酵:有機物の分解過程。人間にとって役に立つものが生じる場合

アルコール発酵、乳酸発酵、酢酸発酵、堆肥発行

腐敗:有機物の分解過程。人間にとって役に立たないものが生じる場合。毒、異臭

 

・発酵と腐敗については過去に説明したのでここでは特に詳しいことには触れません。

・お酒は役に立つ有機物分解ですので発酵に分類されます。

 

酒の原料:果物(糖)、穀物(デンプン)など

 

・お酒の原料はほとんどが上の二つです。糖をアルコールに変えてお酒にします。

 

 

 

 

 

 

 

・これは基本的なアルコール製造の流れです。

・基本的には単糖類を酵母が分解(発酵)して二酸化炭素とエチルアルコールを作ります。

・伝統的に長い歴史の中で、ワインを作るのに向いている酵母だとわかってきた酵母をワイン酵母、ビールを作るのに向いている酵母だとわかってきた酵母をビール酵母、日本酒を作るのに向いているとわかってきた酵母を日本酒酵母と呼びます。ワイン酵母はブドウの皮についているやつですね。

・アルコールを作る発行は嫌気性発酵なので、ブドウをつぶして酸素のない状態で放っておけばワインになります。果物には糖が含まれているので、勝手に発酵します。しかし、穀物はデンプンを酵母に変えたうえで発酵させる必要があります。

 

単発酵→果実酒、ワイン

 

・最も単純なアルコールの作り方です。原料に糖があってそこに酵母がくっついていて、それをぐちゃぐちゃに混ぜるだけでワインになります。

 

単行複発酵→ビール

 

・デンプンを糖に変える方法には2種類あります。そのうちの一つが、単行複発酵です。

・酵素によってデンプンをいったん糖化させ、その酵母でアルコール発酵させます。デンプン→糖→アルコールと時間差があって複発酵するやり方です

 

並行複発酵→日本酒

 

・もう一つが並行複発酵。デンプンを糖にするのと糖を酵母でアルコールにするのとを同時に行う発酵。一度に同時に両方を行うので制御には高い技術が必要です。麹というカビを用いてデンプンを糖に変えて、日本酒酵母がアルコールに変えていきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・お酒はいつ頃飲まれ始めたのかはいまだにわかってはいません。とりあえず、証拠が見つかっている最古のお酒を飲む人たちは、エジプトのピラミッドを作っている人たちです。ピラミッドは奴隷が作っていたわけではなく、一般市民がお給料をもらって作っていた公共事業のようなものです。その時の給料の一部としてビールを配っていました。エジプト文明の壁画にはしっかりとワインやビールを飲む人々の様子が描かれています。

・ただし、ビールにホップを入れるようになったのは15世紀以降です。それ以前はホップのないビールでしたので今のビールとはだいぶ違うものだったでしょう。

・ワインが作るのには最も簡単ですので、ワインが最初にのまれたとは思います。しかし、考古学的な証拠はありません。

・人類初のお酒はおそらくハチミツ酒なのではないかと言われています。ハチミツ酒は土器がなくても製造ができるからです。木のうろの中にハチの巣があり、中にハチミツがあることがあります。ハチミツは水分活性が低いので発酵しないのですが、雨が降り、ハチミツが薄まると水分活性が下がり発酵ができます。そして、自然にハチミツが発酵したものを石器時代の人たちが飲んだのではないか。という風に言われていますが、証拠はありません。

・おそらくワインは果実を潰して放っておいたら良い匂いがして、それを飲んだら気持ちよくなったというのが起こりではないかと思います。

・日本酒の起源は弥生時代の終わりです。日本酒には高度な技術が必要ですので、そんな昔に日本酒が作られていたのはすごいことです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・日本酒についての表です。

・普通の日本酒はほとんど醸造アルコールが入っています。この醸造アルコール入りの日本酒はべたつくので好まない人もいますね。

・吟醸と大吟醸は精米歩合の違いで分類されます。

・純米酒は米と米麹のみを使って作られた日本酒です。

・お酒の種類の表です。左から、名称、品名、発明された場所、原材料、日本における酒税を表しています。たとえば、日本酒は1升で約200円くらいの税金がかかっていることになります。

・醸造酒には日本酒のほかにワインがあります。ワインの中には赤、白、ロゼとあります。黒い、もしくは赤黒いブドウの実を皮と一緒に7~10日間発酵させるとブドウの皮から色素が出て赤ワインになります。潰したらすぐに皮と実を分離すれば白ワインに、1〰2日だけ皮と実を一緒にしておくとロゼワインになります。ただし、安物のロゼワインは赤ワインと白ワインを混ぜただけです。

・ワインにはほかにスパークリングワインという種類もありますが、これは、発酵させたときに出る二酸化炭素を蓋をしっかりと絞めて抜けないようにしたものです。安物のスパークリングワインは二酸化炭素を吹き込んでいるだけです(二酸化炭素は食品添加物として認められています。認められていなければコーラやサイダーは作れません)。シャンパンと呼ばれるものもありますが、あれはフランスのシャンパーニュ地方で作られたスパークリングワインのみが名乗ることのできる名前です。

・ビールの欄に上面発酵と下面発酵とありますが、15度から20度という高い温度で発酵させると酵母が浮いて上面で発酵が起こります。上面発酵は香りが個性的で日本ではほとんどなく、ヨーロッパには多いです。下面発酵は15度以下で酵母が底にたまって発酵するものです。すっきりとした味で日本やアメリカは基本的に下面発酵のビールです。

・ビールといえばドイツビールが有名ですが、初めてドイツビールを飲むんだ時にはおいしいと感じないと思います(3~4日で慣れますが)。逆に、ドイツビールになれると日本のビールは味がほとんどないように感じます。

・ドイツでは麦とホップ以外で作ったものはビールと呼んではいけないのですが、日本ではコーンやデンプンを使ったものもビールに含み、麦芽が50パーセント以上ならビールとして扱われます。札幌クラシックやサントリーのモルツなんかはこれで、酒税が高いです。50%より少ないものは発泡酒と呼ばれ、税金が安いです。ビールが発泡酒に比べて高いのはこの酒税が原因です。

・醸造酒はアルコール20%くらいまでしかありません。これは、酵母が自分の作り出したアルコールに酔っぱらってしまって働かなくなるので、20%までが限界だからです。ですので、それ以上のアルコール度数の高いお酒を造るには、醸造酒を蒸留する必要があります。誰かがもっと強いお酒を飲みたいと思って蒸留酒が発明されたのかと思います。

・白酒は中国のお酒です。これはアルコールが60%もあるお酒なので気を付けて飲まないと悪酔いしてしまいます。

・ジンは松の実から作られるお酒で、ジン独特のにおいは松の実からくるものです。

・リュウゼツランは茎の部分にデンプンがあり、それを発酵させたものがテキーラです。

・ウイスキーはホップのないビールを熟成させて作ります。

・ブランデーはワインを熟成させたものです。

・ウイスキーもブランデーも蒸留した直後は透明なのですが、木の樽(オーク)に入れて熟成させると色と匂いが出てきます。

・スコットランドで作られたウイスキーがスコッチウイスキー、アイルランドで作られたウイスキーがアイリッシュウイスキーである。

・麦を発芽状態にさせ、止めるときにピートという泥炭を燃やして止める。この時に、ウイスキーの独特なにおいがつく。

・5大ウイスキーはこの2つのほかにアメリカンウイスキー(バーボン)、カナディアンウイスキー、そしてジャパニーズウイスキーです。竹鶴政孝がスコットランドでウイスキーの作り方を勉強し、わずか100年で世界の五大ウイスキーとなるまでに上り詰めたのです。

・フランスのコニャック地方で製造したブランデーをコニャックと呼ばれます。このように、お酒は原産地を重要視した名前が付けられることが多いです。

・混成酒はいろいろあります。何かのお酒から違う味のものを作り出したものが混成酒です。

・最後は粉末酒です。粉末のお酒なんてあるの? と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、あります。これは日本の発明です。名古屋の食品会社が30年ほど前に発明しました。通常、粉末にするには水を蒸発させる必要がありますが、アルコールの沸点は70度と水よりも低く、水よりも先に沸騰してしまいます。ここでデンプンを使うのです。デンプンの分子がアルコール分子を囲み、水だけを蒸発させるようにして作られたのが粉末酒です。日本では法では酒は液体だったのですが、粉末酒の誕生により法律が変化しました。

・粉末酒はどこで売っているのか? わかりません。見たこともありません。食品工場が加工食品の中でアルコール入りの加工食品に使うらしいです。他には、イスラム教の国々に日本人が行ったとき、現地ではお酒を売っておらず日本からお酒を持っていくこともできないので、粉末酒を持っていき現地で水を加えて飲むという噂を聞いたことがあります。真偽は不明です

 

体内(肝臓)でのアルコール分解

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・では、飲んだアルコールは体の中で一体どうなるのでしょうか?

・飲んでから数秒のうちにアルコールは胃や腸で吸収されます。そして、酵素によりアセトアルデヒドへと分解されます。そしてさらに、酵素が酢酸へと分解、さらに水と二酸化炭素へと分解していきます。植物が光合成により水と二酸化炭素からと合成した糖を人間の体内ではそれを元に戻しているのです。この戻す過程で人間はエネルギーを得ます。アルコールのエネルギーはどのくらいかというと7kcal/g。結構カロリーが高く、人によっては体重がかなり増えます。そのうえ、お酒と一緒につまみも食べますので、お酒好きの人で肥満が多いのはこのためです。ただし、だからと言ってお酒を飲むときに食べ物を食べないのは悪い酔いしますのでNGです。

・さて、このアルコールの分解の過程の中で、くせ者がアセトアルデヒドです。

・お酒を飲んですぐにふわっとした感じになるのはアルコールの影響ですが、そのあとの頭が痛くなったりするのはアセトアルデヒドの影響です。

・この世には明らかに体にとって危険だと分かっている物質がいくつかあります。素保一つはたばこであり、その次がアセトアルデヒドです。アセトアルデヒドは発がん性の物質です。

・お酒に強い人と弱い人がいます。弱い人はアルデヒドを酢酸へと分解するアルデヒドデヒドロゲナーゼという酵素が弱い人です。この酵素にはALDH1とALDH2の2種類があります。ALDH1はゆっくりアセトアルデヒドを酢酸へと変えていく酵素です。この酵素はほとんどの人が持っています。ALDH2はアセトアルデヒドを急速に酢酸へと分解する酵素です。この酵素の強い弱いはかなり遺伝によるものです。この強い弱いはGGタイプ、AGタイプ、AAタイプと3つのタイプに分かれ、GGはお酒に強いタイプ、AGはお酒に弱いタイプ、AAはお酒がほとんど飲めないタイプです。AAタイプの人にお酒を飲ませると殺人となります。

・アルコールパッチテストというのはこの3タイプのどれかを確認するテストで、パッチをはがしてすぐに赤くなる人はAAタイプ。はがしてしばらくして赤くなる人はAGタイプ。まったく赤くならない人はGGタイプです。

・このタイプは遺伝によるものなので、弱い人は努力をしても強くなることはありません。

・白人(コーカソイド)や黒人(ネグロイド)のほぼ全員はGGタイプです。我々黄色人種(モンゴロイド)の4割はAGタイプ、5%はAAタイプです。なぜかという理由は不明ですが、仮説として、黒人や白人はお酒が飲めないと子孫を残せず、GG以外の遺伝を後世に伝えられなかった。しかし、モンゴロイドは酒を飲めない人も許容する社会で、お酒が飲めなくても生き残ることができた。と考えることはできます。

・ドイツならビールジョッキ2杯までなら飲酒運転が認められているという嘘か本当かわからない噂を耳にするほど、彼らはお酒に強いです。

・オーストラリアの先住民族にアボリジニという民族がいます。彼らは半分以上がAAタイプです。オーストラリアではAAタイプの人にお酒を飲ませると罪に問われる法律があります。

・皆さんは自分がどのタイプなのかを早いうちに知っておいたほうが良いでしょう。

・訓練すればお酒に強くなるということはありません。しかし、何回か飲むうちに飲み方がうまくなることはあると思います。

・最後にお酒に関する雑学をして終わりたいと思います。

・フレンチパラドックスという言葉をご存知でしょうか? フランス人は脳梗塞になる人の割合が低いのでスフが、それは赤ワインに含まれるポリフェノールの効果だという話です。嘘か本当かはわかりません。

・アメリカでは13年間禁酒法が制定されていました。しかし、禁止してしまうと裏でお酒を飲む人が現れ、マフィアなどがビジネスを始めてしまいました。これにより、お酒は体に良くないからと言って禁止するともっと良くないことが起こるとして13年で禁酒法はなくなりました。これはThe Noble Experiment(高貴な実験)と呼ばれます。

 

◎『酒を飲みたい三原則』

①酒を飲みたい人が、②酒を飲みたいときに、③酒を飲みたいだけ 飲む

 

・上の言葉はもはや誰が言い始めたのかがわからないくらい、いろいろな人が言っている言葉です。お酒は適量で楽しみましょう。

わたしと食品

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